東京地方裁判所 平成元年(特わ)217号 判決
本籍
東京都中央区月島四丁目七番地
住居
同都同区月島四丁目三番一九号
会社役員
小保方勲
昭和五年七月三一日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中島鈆三、同渡辺咲子出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金六三〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、東進液化ガス株式会社及び太洋畜産株式会社の代表取締役であるかたわら、営利の目的で継続的に有価証券売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右有価証券売買を他人名義で行う等の方法により、所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五九年分の実際総所得金額が一億一二一七万四一八〇円であった(別紙一の1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六〇年三月一三日、同都中央区新富二丁目六番一号所在の所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の総所得金額が一二一六万九五〇〇円で、これに対する所得税額が四万六〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成元年押三七二号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額六〇八五万六〇〇円と右申告税額との差額六〇八〇万四六〇〇円(別紙一の2脱税額計算書参照)を免れ
第二 昭和六〇年分の実際総所得金額が一億八七四万九二九三円であった(別紙二の1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六一年三月一四日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、同六〇年分の総所得金額が一一五六万二三〇〇円で、これに対する所得税額が三二万一五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五八九二万八八〇〇円と右申告税額との差額五八六〇万七三〇〇円(別紙二の2脱税額計算書参照)を免れ
第三 昭和六一年分の実際総所得金額が一億八六八〇万五六六六円であった(別紙三の1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六二年三月一四日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の総所得金額が一五六一万五六八円で、これに対する所得税額が一七万六〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億一一八五万七二〇〇円と右申告税額との差額一億一一六八万一二〇〇円(別紙三の2脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の目標)
判示全部の事実につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書四通
一 市川保の検察官に対する供述調書
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 有価証券売買益調査書
2 株式売買回数と株式売買株数調査書
3 雑費調査書
4 利子収入調査書
5 配当収入調査書
6 配当控除調査書
7 源泉徴収額調査書
一 収税官吏作成の領置てん末書
判示第一の事実につき
一 押収してある五九年分の所得税確定申告書等一袋(平成元年押第三七二号の1)
判示第二の事実につき
一 押収してある六〇年分の所得税確定申告書等一袋(同押号の2)
判示第三の事実につき
一 押収してある六一年分の所得税確定申告書等一袋(同押号の3)
(法令の適用)
一 罰条
判示各所為につき、いずれも所得税法二三八条一、二項
一 刑種の選択
いずれも懲役刑と罰金刑の併科
一 併合罪の処理
刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項
一 労役場留置
刑法一八条
一 懲役刑の執行猶予
刑法二五条の一項
(量刑の理由)
本件は、被告人が、有価証券売買の一部を他人名義で行う等の方法により有価証券売却益を秘匿して所得を過少に申告し、三年間にわたり合計二億三一〇九万円余の所得税をほ脱した事案である。そのほ脱額は高額であり、ほ脱率は通算して九九・七パーセントと高率であること、犯行の動機に特段同情の余地はないこと、所得秘匿の手段、方法も取引名義を家族に分散させて課税要件に充たない取引を仮装するもので、計画的であること等の事情を考慮すると、犯情は悪質であり、被告人の刑責を軽く評価することはできない。しかし、被告人は、本件が発覚してからはほ脱の事実を全面的に認め、修正申告を行った上、本税、地方税を完納し、附帯税については分納の承認を受け、その一部を納付するとともに自己所有の不動産を差押えに供して反省の意を表明していること、被告人には前科、前歴がないことなど被告人に有利な事情も認められ、被告人の年齢、家庭の事情等も併せ考えると、被告人に対しては、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断し、主文のとおりの刑を量定した次第である。
(求刑 懲役一年六月及び罰金七〇〇〇万円)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 稲田輝明)
別紙一の1
修正損益計算書
小保方勲
自 昭和59年1月1日
至 昭和59年12月31日
〈省略〉
別紙一の2
脱税額計算書
昭和59年分
小保方勲
〈省略〉
別紙二の1
修正損益計算書
小保方勲
自 昭和60年1月1日
至 昭和60年12月31日
〈省略〉
別紙二の2
脱税額計算書
昭和60年分
小保方勲
〈省略〉
別紙三の1
修正損益計算書
小保方勲
自 昭和61年1月1日
至 昭和61年12月31日
〈省略〉
別紙三の2
脱税額計算書
昭和61年分
小保方勲
〈省略〉